大工塾ネットワーク「杢人の会」
コラム

毎回、担当の大工が日頃考えている疑問や悩みを本音で綴っていきます。

大工の本音

有限会社 宮一技工:宮内一利
宮内一利


01:建築の行方
20:予算と期待度
37:「ありがとう」
41:サボるアリ

杢人大工を夫に持つ数人で「木婦人の会」を結成いたしました。
今回は急にコラムを引き受けることとなって初登場、この次はいつになるかわかりませんが木婦人の告白もよろしくお願いします。

■「ありがとう」


一年が過ぎるスピードが年々加速し、もう師走かと澄み切った空をボーっと見つめては、ついため息をついてしまう。
今年もいろいろあったなあ、反抗期の娘に手を焼き長男とは言い争いのけんかをし、末の娘には忘れることが多いと注意をされ・・・
子供たちの身勝手さがほとほといやになりプチ家出をしたこともあったし。
夫はと言えば、言いたいことは山ほど・・・
まあいいさ、それでも亭主元気でなんとかとは思ってませんよ、日々感謝しております。
なかでも、たくさんの人と出会わせてくれたことにはとても感謝しているんだ。

夫がサラリーマンを辞め、家具製作の会社に勤めている時に出会った蒲田の道具屋さんは今では私のとても大切な存在となっている。なにかあれば真っ先に相談し、愚痴をこぼし、時にはお小言をもらったり。その人は小さな店の奥で胡坐をかき、錆びた包丁を持って研ぎに出した客に「錆びさせないように大事に使えよ」と注文をつけ、ぶらりと入って商ケースを見ている客に「なに? なに探してんの?」と横目でにらむ。でも、とても優しく謙虚で頑固な人です。そんなじいじとばあばが(このご夫婦を私はこう呼んでいる)先日ちょこっと我が家へ立ち寄ることがあった。新潟へ行った帰りだとお土産を持ってきてくださり、ばあばの実家でできた新米を分けてくださった。
気を遣って家には上がらず、ひとしきりおしゃべりを楽しみ「じゃあね」と車に乗り込んだ、見送る私にばあばが「いつもありがとね」と。すぐに車が走り出してしまい、とっさに私は何も言えず手を振るだけだった。
なんてことだろう、そのセリフは本来なら私が言うべきもののはず、申し訳ないのとありがたいのとで涙が出てしまった。
他人にはなんてことない出来事なのだと思うけれど、このことがきっかけで改めて感謝の心が足りないことに気づかされてしまった。

杢人大工たち、いつもありがとう。次の会合では何も文句は言わず暴言も吐かず笑顔で対応するからね。「民芸大工」って言われたけど民芸品は無くなることは決してないから何と言われようと生き抜いていこうね。


2011.12.1


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